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山口 瞳[日記] 2015/01/11

山口 瞳を読んでいます。
健さんが亡くなってしまったからでしょうか、
なんか、も一度『居酒屋兆治』が読みたく、
そうなると、いてもたってもいられなくなったのでした。

何年かぶりに読み返す『兆治』は、しかし以前の話とはまるで違って感じられました。
映画版では不器用な男が、添い遂げることは出来なかったけれど、一途に昔の女を想っている…。そんな話だったわけですが、
原作は複線でずっと流れている、渥美二郎の夢追い酒の歌詞が暗に示すとおり、
深く、重い愛を背負うことに臆病だった、そして結局その愛を壊すこともできずに、ただ置いてきただけの男。
村上春樹ふうに言えばデタッチメントの罪、とでも言えましょうか。
そんなナサケナイ男の話、といった捉え方をしたのでした。

見る場所たがえば話も違う、で、そんな小狡く、女々しい兆治の<発見>は、信じていた価値観がひっくり返るような感覚で、
ちょうどアゴタ・クリストフの『悪童日記』を読んだ時の、目眩にも似た感動に似ています。
読書の楽しさを久しぶりに味わいました。
(読み方、まったく間違っているかもしれませんが…)



しかし、古いところの山口瞳は泣けますね。

そういえば、ひと昔前、中野の行きつけのスナックが店を閉じるという、その最後の日。
閉店時間も大分過ぎ、騒いでいた馴染みの客も、その時ばかりは畏まって別れの挨拶をし、一人へりふたり減り。
最後のさいご、ママは「はせがわさん、これ持ってって」と、口の切られていないウイスキー(かなり高いヤツ)を一瓶持たせてくれたのです。
私は…ホントに何もなかったから、ポケットにあった読みさしの『江分利満氏の華麗な生活』を面白いから、と手渡したのでした。
もう少し気の利いた別れはなかったものかな。

今でも柳原良平さん描かれる江分利氏を見ると思い出します。